街をまたぐ足音
R-18
街をまたぐ足音
雨は午後のうちに上がっていた。アスファルトはまだ黒く湿って、街灯の光を細く割っている。交差点の向こうで、最初の足音がした。
遠くではない。近い、というより、地面そのものが一度沈んだ。マンホールの蓋が小さく鳴り、電柱の影が長く伸びた。見上げた先に、靴の底があった。ビルの三階まで届く高さで、泥の縁が街灯を半分隠していた。
彼女は急いではいなかった。横断歩道の白線を、まるで池の縁を踏むように避け、次の一歩を置く。靴底が降りてくるとき、街は一度、息を止める。風が下へ落ち、看板の鎖が鳴り、濡れた紙が排水溝へ走る。
「大きい」と誰かが囁いた。誰も走らなかった。逃げ場所は、彼女の歩幅のあいだにしかない。縁石の陰、自動販売機の脚、バス停留所の屋根の裏側。人々はそこに身を寄せ、巨大な足首が通り過ぎるのを待った。
二歩目で、通りの向こうの時計台が傾いた。壊れはしなかった。傾いただけだ。針は七時十四分で止まったまま、彼女の膝の高さで小さく光っている。彼女はそれに気づかない。あるいは気づいて、気にしない。巨大な影の中では、街の時間など、靴紐の先ほどの出来事だった。
信号が青に変わった。誰も渡らない。彼女の足の裏が、横断歩道の半分を覆っていた。白い縞は、湿ったゴムの下で消え、また、かかとが上がると同時に現れた。水たまりが彼女の足跡の形に残り、街灯を二つに割って映した。
三歩目は、駅前のロータリーへ落ちた。タクシーがクラクションを鳴らす暇もなく、空気が押されてガラスが震えた。彼女は立ち止まり、靴の中の小石を落とすように、つま先をわずかに動かした。その動きだけで、街路樹の葉が雨のように散った。
下から見ると、スカートの裾は雲の端に見えた。生地の影が三つの交差点を同時に暗くし、それからゆっくり戻る。彼女は携帯電話を見た。画面は、下の者たちには広告塔ほどに大きく、通知の光がビルの壁を青く塗った。
「まだ早い」と、彼女は小さく言った。声は低音として届き、窓ガラスが返事をした。早くない、と街は思った。すでに夜の入口に立っていた。彼女の影が、川の向こうの工場地帯まで届いていた。
四歩目で、彼女は路地をまたいだ。路地にいた猫は、靴底の谷間をトンネルだと思ったらしい。光が消え、湿った匂いがして、また光が戻った。猫は元の段ボールへ戻り、巨大な歩行を天候の一種として受け入れた。
人々は徐々に動き出した。避難ではなく、観察だ。この街では、巨大な足音は警報ではなく、季節の変わり目に近かった。誰かが写真を撮り、誰かが傘を差し、誰かがただ、靴の側面に付いた街の灯を見上げていた。
彼女は駅の向こう、まだ工事中の橋の方へ向かった。橋は彼女の足首ほどしかなく、渡る意味がなかった。彼女は川をまたいだ。水面が凹み、対岸の葦が一斉に伏した。魚は、一瞬、空を見た。
最後の足音は、住宅街の手前で止まった。彼女はしゃがんだ。膝が、集合住宅の屋上と同じ高さになる。窓という窓に、巨大な瞳が映った。まばたきの風で、物干し竿が傾いた。
「ごめんね」と彼女は言った。詫びというより、靴を揃えるときの小さな声に近かった。それから立ち上がり、夜の奥へ歩いていった。通りには、黒く大きな水たまりが三つ残った。雨上がりの街は、それを池と呼ぶことにした。
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